AIとの「会話の続き」が広告枠になる日――Googleマルチターン広告とモッセーリの警告が示す、ブランドの新しい居場所

AI売り込み列車

AIとの会話は、これまで広告から守られた静かな場所だった。その場所が、いま広告枠に変わり始めている。Googleは10月28日(米国時間)の決算説明会で、AIモードへの広告掲載を海外10カ国へ広げ、さらに米国では会話の「続きの質問」にも広告を出す「マルチターン広告」を始めると発表した。同じ週、InstagramのトップであるAdam Mosseri氏は「AIへの反発はこれからもっと強まる」と語っている。会話の奥へ入り込もうとする広告と、AIに疲れ始めた生活者。この二つのニュースを重ねると、ブランドが次に向き合う問いが見えてくる。

ニュース概要

1. GoogleがAIモード広告を世界へ、米国では「会話の続き」にも広告

Alphabetは第3四半期決算で、売上高が前年同期比25%増の1,276億ドルになったと発表した。その説明会で、GoogleのCBO(最高ビジネス責任者)Philipp Schindler氏は、AIによる概要(AI Overviews)とAIモード内の広告を、より多くのユーザーと検索クエリに広げていると述べた。広告をAI検索で海外展開するのは今回が初めてだ。

  • AIモード広告の対象国:オーストラリア、カナダ、インド、ケニア、マレーシア、ニュージーランド、ナイジェリア、パキスタン、フィリピン、シンガポール。第4四半期にはブラジル、メキシコ、英国が続く。
  • 米国では「マルチターン広告」を開始。たとえばノートPCを探し、続けて「1,000ドル以下に絞って」と聞いたとき、その追加の回答文脈にも広告が表示されうる。
  • 一方で、検索広告の伸びは第1四半期の19%から第3四半期は12%へ鈍化。Schindler氏は、AIモードでの検索が増えたことが、マネタイズ効率の低さを通じて検索収益の伸びを押し下げたと認めた。
  • Googleは、AIモード内のスポンサー商品リストのクリック率は通常の検索結果と同等だとしている。

2. Instagramのモッセーリ氏「AIへの反発はさらに強まる」

モッセーリ氏はポッドキャスト「Colin and Samir」に出演し、AIに対する不安や怒りが広がっていると語った。それは若者やクリエイターに限らず、特にクリエイティブ業界で強いという。

モッセーリ氏は、AIへの「不安、不満、怒り」が増える流れを指摘し、今後もこの傾向は続くと見ている。

  • 反発の背景として、雇用の喪失、自分の作品が無断でAIの学習に使われること、安全性への懸念を挙げた。
  • InstagramはAIクリエイターを特別扱いしていないとしつつ、AIコンテンツが他のコンテンツと同じように評価されているかには疑問を示した。良いAIコンテンツも「AIスロップ(粗悪なAI生成物)」もある、という立場だ。
  • AIアカウントに自らAIであると表示させる取り組みを始めた一方、AIコンテンツの全面禁止は現実的ではないと述べた。
  • 本物のクリエイターを誤ってAIと判定することが、人々の怒りを最も買いやすいとも警告している。

Spike Analysis:会話の「間借り人」になるブランド

検索広告は「割り込み」だった。会話広告は「同席」になる

従来の検索広告は、検索結果ページという「掲示板」に貼り紙を出すものだった。ユーザーは広告と自然検索を見比べ、自分で選んだ。ところがマルチターン広告は違う。ユーザーがAIと話を深めていく、その流れの中に広告が入り込む。いわば、二人で話しているテーブルに、三人目が同席するようなものだ。

Branding Spikeはこれを「会話の間借り(Conversation Tenancy)」と呼びたい。ブランドは、ユーザーとAIのあいだにある会話という部屋を、一時的に借りて住む存在になる。ここで重要なのは、部屋の持ち主はユーザーであり、管理人はAIだという点だ。間借り人の振る舞いが悪ければ、追い出されるのはブランドのほうである。

会話が深まるほど、ブランドの「態度」が見られる

1回きりの検索なら、広告は目立てばよかった。しかし会話の3ターン目、4ターン目に出てくる広告は、ユーザーの迷いや条件をすでに知った上で現れる。そこで場違いな売り込みをすれば、「この話を聞いていなかったのか」という違和感が、そのままブランドへの不信になる。

つまり会話広告で問われるのは、クリエイティブの派手さではなく、ブランドの「聞く姿勢」だ。これは本誌が論じてきた会話的ブランド誠実性(Conversational Brand Integrity)が、オーガニックの回答だけでなく、有料枠にまで広がることを意味する。広告であっても、会話の文脈を壊さないことがブランド体験の一部になる。

モッセーリ発言が示す、もう一つの現実

ここで二つ目のニュースが効いてくる。プラットフォームの責任者自身が、AIへの反発は強まると言っているのだ。Googleが会話の奥へ広告を広げるのと同時に、生活者の側では「AIが作ったもの」「AIが勧めるもの」への疑いが育っている。

この二つの動きは矛盾ではなく、同じコインの裏表だ。AIが情報の入り口になるほど、人は「誰が、何のために、これを見せているのか」を気にするようになる。会話の中に広告が混ざる世界では、本誌が信頼税(Trust Tax)と呼んできたコストが、より重くのしかかる。AIの回答に広告が入っていると知ったユーザーは、広告ではない回答まで疑い始めるかもしれないからだ。

「誤ってAI扱いされる」リスクは、ブランドにも起きる

モッセーリ氏が挙げた「本物のクリエイターをAIと誤判定すると、人は最も怒る」という指摘は、ブランドにとっても他人事ではない。人の手で丁寧に作った広告が、AIっぽい見た目のせいで「どうせAIでしょ」と受け流される。AI生成物があふれるほど、こうした誤解は増える。

だからこそ、人の手による制作を見える形で示す意図的な不完全性(Deliberate Imperfection)や、AIの使い方を自ら明かす「開示プレミアム(Disclosure Premium)」の価値は上がる。AIを使うかどうかではなく、「どこに人の判断が入っているか」を語れるブランドが選ばれる。

測れないまま、広告枠だけが広がる

もう一つ見逃せないのは、AIモードの収益性が通常の検索より低いとGoogle自身が認めた点だ。広告主にとっては、効果の測り方がまだ固まっていない枠に、予算を投じるかどうかの判断を迫られることになる。マルチターン広告では、何ターン目の表示が購買につながったのかも見えにくい。本誌の言う計測空洞(Measurement Void)は、会話広告で一段と深くなる。

効果が測りにくい場所では、ブランドの判断基準は「数字」から「らしさ」へ戻らざるを得ない。この会話に、自分たちのブランドが出てきて自然かどうか。その問いに答えられる企業だけが、間借りを長く続けられる。

日本市場への示唆

今回発表された対象国に、日本は含まれていない。これは日本企業にとって、準備のための「猶予期間」と見るべきだ。英語圏・アジア太平洋の国々で会話広告が先に広がる以上、日本への展開は時間の問題と考えておくほうがよい。

  • 会話の中での「らしさ」を言葉にしておく:日本企業のブランドガイドラインは、ロゴや色、トーンの規定が中心で、「会話の中でどう振る舞うか」はほとんど書かれていない。商品を勧める場面、勧めない場面を、いまのうちに定義しておく必要がある。
  • 「押し売りしない」文化は強みになる:日本の接客には、相手の話を聞いてから提案する作法がある。これは会話広告の時代にそのまま通用する感覚だ。広告を「売り場」ではなく「相談の場」として設計できるかが分かれ目になる。
  • AIへの反発は日本でも静かに進む:日本の生活者は表立って怒りを示すことが少ない分、離れていくときも静かだ。AI生成の広告や画像を使う際は、使ったこと自体より「なぜ使ったか」を説明できる準備をしておきたい。
  • 人の手の証明を資産にする:職人技、取材、現場の写真など、日本企業が得意とする「人の手の跡」は、AI不信の時代に信頼の目印になる。誤ってAI扱いされないための見せ方まで含めて設計したい。

AIとの会話に広告が入ることは止められない。だが、その会話に招かれる客になるか、招かれざる客になるかは、ブランド自身が選べる。

出典

-