AIはブランドを「ランク付け」しない。「言及するかどうか」を決める時代に、CMOたちはどう動いたか

AIにつられる言葉

2026年9月15日、マーケティング業界を揺さぶる2つのニュースが相次いで報じられた。AIが消費者の購買判断に深く侵食しつつある現実を受け、CMOたちは「GEO(生成AI向け最適化)」という小手先の戦術ではなく、「ブランドが持つ感情的価値(感情資産)への再投資」という一見逆張りとも言える戦略を選んだ。そして同日、GoogleはAI向けコンテンツライセンスの新モデルを発表したが、その中身は「ブラックボックス」との批判を早くも浴びている。AIとブランドの関係が根本から書き換えられつつある今、その構造変化をBranding Spikeの視点で読み解く。

ニュース概要①:CMOたちはGEOより「アッパーファネル」に賭けた

Digiday(2026年9月15日付、Sam Bradley記者)の報道によれば、米消費者の61%が直近3カ月でAIアシスタントを購買判断に活用しており、この数字はデジタルエージェンシーDeptが2,600人の購買者を対象に実施した調査で明らかになった。

この変化に最も敏感に反応したのは、保険・自動車・ランニングシューズのように「購買検討期間が長いカテゴリ」のブランドだ。AIが検索の起点を占拠することで、こうしたブランドは「AI上で言及されるか否か」という死活問題に直面している。

  • State Farm:NFLクォーターバックのパトリック・マホームズを起用した大型ブランドキャンペーンを展開。マーケティング責任者のAlyson Griffinは「AIの台頭によって、感情的資産(キャラクター・ブランド)の重要性がむしろ増した」と語り、予算削減ではなく増額に向けた議論を進めていることを明かした。
  • Mercedes-Benz:テニスのココ・ガウフを起用したキャンペーンを地上波・衛星TV・ペイドソーシャル・デジタルOOHで展開。シニアマネージャーのRyanne Webberは「車の購買サイクルは数年単位。AIの影響を考慮した上で、ブランド認知と検討段階の両方を視野に入れた設計を行っている」と語る。
  • Hoka:ニューヨークシティマラソンに向けたブランドキャンペーンを展開。北米マーケティングVPのAllie Tsavdaridesは「Share of AI(AIでの言及シェア)を直接測定することは難しいが、感情的なつながりとプロダクトの信頼性の組み合わせが重要だ」と述べた。

IABは、米国広告費の成長予測を9.5%から12.3%へと上方修正した。その要因のひとつとして、AI検索対応への投資増を挙げている。また、IABの調査ではマーケティング担当者の44%が「変化する検索行動への適応」を最大の投資課題と回答した。

「AIはブランドの脆弱性を浮き彫りにしている。だからこそブランド投資が、その認知の空白を埋める手段になり得る」(Gartner アナリスト Andrew Frank)

ニュース概要②:Googleの「成果連動モデル」が強いる、不透明な価値評価

AdExchanger(2026年9月15日付)が報じたところによると、GoogleはパブリッシャーとのAIコンテンツライセンス交渉において、新たな「ペイ・パー・バリュー(価値に応じた支払い)」モデルを試験導入した。Gemini・AI Overviews・AI Modeにおいてコンテンツが「有意に貢献した」と判断された場合のみ報酬が発生するが、何を基準に「貢献度」が算定されるかは非公開のままだ。

Search Consoleには「AI Earnings(AI収益)」ウィジェットが追加され、月次収益が表示されるものの、その算出ロジックは開示されない。参加パブリッシャーの一部は「完全なブラックボックス」「収益は雀の涙」と述べており、批判的な見方が強い。それでも多くのパブリッシャーは「Googleのエコシステムから排除されるよりはましだ」と判断し、参加に前向きだという。


Branding Spike Analysis:「ブランドの発言権」をAIに奪われる前に

① AIは「順位」ではなく「存在の有無」を決める

従来のSEOは「検索結果の何位に表示されるか」を競うゲームだった。だが生成AIの時代、ゲームのルールそのものが変わった。AIはブランドを「ランク付け」しない。「言及するかどうか」を選ぶのだ。State Farmのマーケターが語った言葉が象徴的だ——「AIが選択肢を提示したとき、消費者が一瞬でも立ち止まって自社を考えてくれれば、それが勝利だ」。

この構造変化をBranding Spikeは「コンシダレーション・コラプス(Consideration Collapse/検討崩壊)」と呼ぶ。AIが消費者に代わって比較・検討を行うことで、ブランドが本来影響を与えるべき「検討フェーズ」そのものが消費者の意識から抜け落ちてしまう現象だ。ブランドは比較表の中に登場する前に、AIの「言及リスト」に入らなければならない。

② 感情資産こそが「AIネイティブ時代の参入障壁(堀)」になる

State Farmが「Jake from State Farm」というキャラクターへの投資を継続し、Mercedes-Benzがココ・ガウフとの情緒的つながりを打ち出した事実は、偶然ではない。AIは大量のテキストデータからブランドへの言及を学習する。その学習データに最も多く、最もポジティブな文脈で登場するブランドが、AIの「想起セット」に入り込む。そしてその学習データを豊かにするのは、ユーザーが語りたくなる感情的な体験——つまりブランドの「感情資産(Emotional Equity)」だ。

CMOたちがアッパーファネルに投資する判断は、目先の戦術としてだけでなく、AIエコシステムにおける長期的ブランド戦略として本質的に正しい。GEOは「今見つかる」ための戦術だが、感情資産への投資は「明日も選ばれ続ける」ための戦略だ。

③ Googleの「ブラックボックス」に見る既視感

Googleの「ペイ・パー・バリュー」モデルは、本質的に「コンテンツの価値をGoogleが一方的に定義する」という非対称な権力構造を制度化したものだ。これはかつてのアドテクにおける「ビューアビリティ」や「アトリビューション」問題と同じ構造であり、本来定量化できないものにGoogleが価格をつける「測定のブラックボックス化」の再来にほかならない。

パブリッシャーが「蚊帳の外に置かれるよりはまし」と判断してブラックボックスを受け入れるなら、Googleはコンテンツの調達コストを最小化しながらAIの価値を最大化できる。この構造がブランドに与える示唆は明確だ——パブリッシャーが弱体化するほど、ブランドにとっての「信頼ある文脈(earned media)」が失われ、AIの学習素材の質も劣化する。

④ AIが媒介する時代の「アッパーファネル」とは何か

Mediaplus社のOliver Williamsが語った言葉は、業界の本音を突いている——「クライアントに対し、これが即効性のあるパフォーマンスチャネルだとは言っていない。純粋な好意度向上を目的に、アッパーファネルへの投資を促している」。これは旧来のブランド広告の復権ではない。AIに「このブランドは信頼されている、好かれている」と学習させるための、新しいアプローチだ。

この視点からすれば、スポーツへの大型協賛・スター起用・感情的ストーリーテリングは、もはや「ブランディング」ではなく「AIへのインプット(プロンプト)」でもある。ブランドがAIに語りかける時代が、静かに始まっている。


日本市場への示唆

日本においては、生成AIによる購買行動の変容はまだ海外ほど顕在化していないが、構造的な備えを始めるなら今が最適なタイミングだ。

  • 感情資産の棚卸しを今すぐ:自社ブランドにAIが学習できるポジティブな文脈(メディア露出・ユーザーレビュー・ストーリーコンテンツ)がどれほど蓄積されているか、即座に点検すべきだ。
  • 「プラットフォーマー追従」からの脱却:GoogleのAIライセンスモデルに象徴されるように、プラットフォーム側の評価基準を鵜呑みにし続けることは、ブランドが主導権を徐々に失うことを意味する。自社の「Citation Capital(引用価値・言及資産)」を主体的に築く編集戦略が問われる。
  • アッパーファネルへの再投資を経営アジェンダに:運用型広告(パフォーマンスマーケティング)偏重からの脱却が、AIネイティブな消費環境における生存条件になりつつある。「ブランド投資はコストではなく、AIに対する質の高いインプットである」という認識の転換が急務だ。

出典

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