「Googleで1位を取れ」という時代が終わろうとしている。マーケターに突きつけられた新たな至上命題は、シンプルだ。「AIに推薦されろ」。Similarwebが公開した実証データは、その事実を数字で証明した。ChatGPTに名前を挙げられたブランドは、そうでない競合より2.5倍高い確率でサイト訪問を獲得する。これはシミュレーションによる推計ではなく、実際のユーザー行動を追ったクリックストリームデータだ。ブランドと消費者の間に、静かに、しかし決定的に、新しいゲートキーパーが立ちはだかっている。
ニュース概要:SimilarwebとProfound、AI時代のブランド発見を可視化
2026年6月下旬、Similarwebは「The Downstream Impact of AI Visibility」と題したレポートを公開した。2025年7月から12月にかけて、米国デスクトップユーザーの実際の行動を追跡した、初の実証的研究だ。
Similarwebの主要データ
- ChatGPTで推薦されたブランドは、推薦されなかった競合と比較して7日以内にサイト訪問される確率が2.5倍高い
- AI推薦を受けたユーザーは、サイト内で平均12.0ページ・11.8分滞在(通常の訪問者は6.5ページ、5.6分)
- AI経由の訪問のうち55.9%はブランド検索経由で到達——ChatGPTへの直接リンクではなく、Googleで改めてそのブランドを検索するという二段階行動が発生している
- 調査対象はFinance(American Express vs Capital One)、Travel(Skyscanner vs Kayak)、Beauty(Sephora vs Ulta)の3業界
同時期、AIサーチ最適化スタートアップのProfoundは「Profound Aim」をローンチした。ChatGPT、Gemini、Perplexityなど主要AIプラットフォームにわたるブランドの露出状況を常時監視し、改善施策の優先順位付けからコンテンツ制作・効果測定までを包括的に自動化するエージェント型プロダクトだ。同社はすでに評価額10億ドルのユニコーンとなっており、その動きはAI時代のブランドマネジメントが急速に産業化していることを示している。
「マーケターはGoogleでの順位を何年も追いかけてきた。しかし今、問うべき問いが変わった。AIはあなたのブランドについて、何を語っているのか」
— James Cadwallader, Co-founder & CEO, Profound
Branding Spike Analysis:AIは「第三者の口コミ」を構造的に内包した、新しい信頼機関である
今回のSimilarwebデータが示す最も重要な洞察は、「2.5倍」という数字そのものではない。真に注目すべきは、推薦後の55.9%がブランド検索を経由するという事実だ。
これは何を意味するか。ユーザーはChatGPTからの推薦を受けた後、直接リンクをクリックするのではなく、Googleに戻って改めてそのブランドを検索する。つまりAIは「背中を押す存在」として機能しており、購買行動における最初の信頼形成を担っている。これはかつての「口コミ」「雑誌の特集」が果たしていた役割に、構造的に似ている。
しかし、従来の口コミと決定的に異なる点がある。AIの推薦は個人の主観的な体験ではなく、巨大なテキストコーパスからの合成された客観的な判断だ。ブランドが「AI推薦される」ためには、ユーザーが語るレビュー、メディアが書く記事、専門家が引用するデータ——これらの第三者言説の総体が、AIに「このブランドは信頼できる」と学習させる必要がある。
ここでBranding Spikeが提唱する概念、「AI口コミ資本(AI Word-of-Mouth Capital)」を導入したい。
従来のブランド資本が「消費者の記憶の中」に蓄積されるものだったとすれば、AI口コミ資本は「インターネット上の言説空間の中」に蓄積されるものだ。それはRedditのスレッド、LinkedInの投稿、ニッチな業界メディアの記事、YouTubeのレビュー動画——すなわちProfoundの調査が示す「97.4%のAI引用がTier-1メディア以外から来る」という事実に裏打ちされている。
つまり、AIに推薦されるブランドは、Forbes掲載よりもReddit評判の方が効いている場合がある。これはブランドPRの根本を問い直す転換点だ。
さらに重要な警告がある。Rand Fishkinの分析が示すように、AIの推薦は同じクエリでも毎回異なる。推薦は固定されない——それはアルゴリズムの動的な判断であり、「一度推薦された」ことが永続的な優位を保証しない。これはかつての検索ランキングとも、従来の口コミとも異なる、不安定かつリアルタイムな「評価エコシステム」だ。
この不安定性こそが、ブランドの本質的な価値——つまりコアストーリーの明確さと誠実性——の重要性を逆説的に高める。AIが毎回異なる文脈から答えを合成するからこそ、どの文脈から参照されても一貫したシグナルを発しているブランドが、最終的に頻繁に推薦されることになる。
日本市場への示唆
日本市場においてChatGPTやGeminiのAI検索利用は急速に拡大しているが、多くの日本ブランドはまだ「AI可視性(AI Visibility)」をマーケティング指標として捉えていない。
特に注視すべき点は2つある。
- 日本語コンテンツのAI参照性の低さ:日本語でのRedditに相当するプラネットフォーム(例:5ちゃんねる、X、note)やレビューサイトのコンテンツが、英語圏のAIに対してどの程度引用されるかは不透明だ。グローバル展開を目指す日本ブランドは、英語圏での言説空間への投資を優先する必要がある。
- Profound Aimのような「AIブランド監視」ツールの欠如:現時点で日本語圏向けに特化したAIサーチ可視化ツールはほぼ存在しない。この空白は、日本のマーケティングテクノロジー企業にとって大きな機会でもある。
日本のマーケターが今すぐ取れるアクションは明確だ。自社ブランドについてChatGPTやGeminiで検索し、どのように紹介されているかを確認する——その単純な行為から、AI時代のブランド戦略は始まる。
出典:AI-Recommended Brands Saw 2.5x More Site Visits – Search Engine Land
出典:Your analytics are lying: Similarweb traces AI recommendations to real traffic – PPC Land
出典:Profound Launches the Profound Index – GlobeNewswire
出典:Profound Launches Aim to Transform AI Search Data into Marketing Execution – MarTech Series
