「アウトプットではなく、インプットを問え。」Cannes Lions 2026が問い直すブランドのクリエイティビティの本質

クリエイティビティの組織化

AIがクリエイティブの「量」を担う時代に、ブランドに問われているのは何か。世界最大の創造性の祭典が、その答えをついに形にした。

ニュース概要:Cannes Lions、「Creative Brand Lion」を新設——問いの矛先が"作品"から"組織"へ

2026年6月22〜26日に開催される第73回Cannes Lions International Festival of Creativityは、今年から大きく進化した賞体系をもって幕を開けようとしている。その象徴が、新設された「Creative Brand Lion」だ。

これまで70年にわたり、カンヌは「生み出された作品(アウトプット)」を称えてきた。しかし今年、LIONS CEOのサイモン・クックはこう問いを立てた。

「私たちはこれまで70年間、ブランドの需要を喚起する作品と創造的アウトプットを讃えてきた。しかし2026年、私たちは別の問いを立てている——そのブレイクスルーを可能にしたインプットとは何か、と。」

— Simon Cook, CEO, LIONS

Creative Brand Lionが評価するのは、広告作品そのものではなく、世界水準のクリエイティブを「必然的、かつ持続可能に」実現できる組織の内部システム、文化、ケイパビリティだ。

さらに今年のカンヌは、複数の重要な刷新を同時に実施している。

  • AI Craft サブカテゴリーの新設:人間のクリエイティビティとAIが融合した作品を評価。「どちらか単独では達成できなかった」ことを証明する、真のクラフトマンシップが問われる。
  • Creative Data Lionのリフレッシュ:データが「意思決定の補助」ではなく「コアアイデアの起点」として機能していることを審査基準に据えた。
  • AI使用の開示義務化:ジェネレーティブAIや合成メディアを使用した応募作品には義務的な開示、AIと倫理の専門家によるレビューパネルが設けられる。

また、カンヌはWFA(世界広告主連盟)と共同でグローバル研究「Clients and Creativity 2026」を実施。多国籍企業のシニアマーケターがAI時代においてクリエイティビティの未来をどう見ているかを調査し、その結果はフェスティバル直前の6月初旬に公開される予定だ。

出典:Cannes Lions公式「Cannes Lions introduces the Creative Brand Lion」

出典:WFA「WFA partners with LIONS on global study to explore the future of creativity」

Branding Spike 独自考察:「クリエイティビティの工場化」か、「組織の美学」か

AIが「作れる」時代に、カンヌが問うているもの

Creative Brand Lionの新設は、単なる賞体系の更新ではない。これはカンヌが業界全体に対して発した、ある種の警告文だ。

生成AIがコピー、画像、動画を瞬時に量産できるようになった今、「優れた作品を一本作れた」という事実は、もはや組織の真の実力を証明しない。フラッシュ的な成功は、才能ある個人のスタンドプレーかもしれないし、AIに運よく生成させた偶然の産物かもしれないからだ。

だからこそカンヌは問いの矛先を変えた。「この組織は、なぜ繰り返し傑作を生み出せるのか」という問いへ。それはつまり、クリエイティビティそのものではなく、クリエイティビティを生む土壌=組織のDNAを問うことだ。

「AI Craft」というカテゴリーが示す深い意味

AI Craftサブカテゴリーの審査基準に注目してほしい。カンヌが求めているのは「AIを使った作品」ではなく、「人間とAIのどちらかが単独では達成できなかったもの」だ。この一文に、Branding Spikeが長く主張してきた「AIと感性の融合」の核心がある。

単なるAI生成コンテンツを称えるのではなく、人間の意図と感性がAIの能力を方向づけ、そこから真の工芸(Craft)が生まれたことを証明せよ、という要求だ。これは、ブランドが「AIを使って効率化した」という次元から、「AIを通じて自分たちにしか表現できないものを作った」という次元へ進化することを迫っている。

組織が「美学的主体」になる時代

ここで、もう一つの論点を提示したい。Creative Brand Lionの評価軸——「システム、文化、ケイパビリティ」——は、実はブランドに対して、組織そのものが一つの美学的主体であることを要求している。

従来、ブランドの美学(aesthetics)はCMOや一部のクリエイターの専権事項だった。しかし生成AIが制作の民主化を進め、誰でも「それっぽい」クリエイティブを量産できる今、本当の差別化は組織の奥底に流れる美的判断力、すなわちブランドの「センス」が制度化されているかどうかにある。

世界水準のクリエイティブを「必然的に」生み出せる組織とは、AIを道具として使いこなしつつも、何を美しいと判断し、何を拒絶するかというブランドの美的倫理観が、人材採用から承認フローまで全体に貫かれている組織だ。

カンヌは今年、70年ぶりにクリエイティビティの定義を書き換えようとしている。それは「何を作ったか」から「なぜ作れるのか」へ。そして「誰が作ったか(人かAIか)」から「どんな感性がAIを動かしているか」へ、という根本的な問い直しだ。

日本市場への示唆:「クリエイティビティの組織化」に出遅れるな

日本のブランドにとって、Creative Brand Lionの新設は見逃せないシグナルだ。日本企業は「良い広告を作る」意識は高い一方で、それを再現可能にする内部の仕組みや文化の整備は後回しにされがちだ。優秀なクリエイターへの依存体質、代理店丸投げの構造、そして社内のAIリテラシー格差——これらは、グローバルな評価基準においてすでに「見えないリスク」になっている。

今こそ問うべきは「次のキャンペーンをどう作るか」ではなく、「10年後も傑作を生み出し続けられる組織を、今どう設計するか」だ。AIがクリエイティブの量を担う時代において、ブランドの競争優位はその「質を選び取る感性の制度化」にかかっている。

出典:Marketing Edge「Cannes Lions unveils Creative Brand Lion as WFA Alliance signals stronger push to measure creativity's role in AI driven brand growth」

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