AIが「無限の量産」を可能にした今、ブランドの価値はどこへ宿るのか――カンヌ2026が告げた「感性エンジン」の時代

選ぶ感性

誰もが、ボタンひとつで無限のコンテンツを生成できる時代。その瞬間に、皮肉にも問われ始めたのは「では、人間のクリエイティビティに何の価値があるのか」という根源的な問いでした。2026年6月22日から南仏で開幕した世界最大の広告祭カンヌライオンズ2026。その壇上で示されたのは、「AIはクリエイティビティを奪うのではなく、その価値を引き上げる」という、力強い逆説でした。

ニュース概要:カンヌが提示した「作るための仕組みを作る」という思想

グローバルエージェンシーR/GAのクリエイティブ・リーダー、ティファニー・ロルフ氏とニック・プリングル氏は、「Making things that make things(作るための仕組みを、作る)」と題したセッションに登壇。AI時代におけるクリエイティビティの再定義を提示しました。

広告業界は長らく、自らが作る「もの(fixed deliverables)」によって定義されてきた。しかしAI時代において、クリエイティビティはむしろより価値あるものになる。一度きりのキャンペーン素材を作ることから、テイスト・キュレーション・戦略的判断によって駆動される「クリエイティブ・システム」を設計することへ。単発のアウトプットから、無限のアイデア・エンジンへ。そこではブランドは“生命体”となり、進化し続けるオン・ブランドな表現を通じて、時間をかけて価値を生み出していく

この思想は、祭典全体を貫く通奏低音でもありました。開幕キーノートに立ったAB InBevのグローバルCMOマルセル・マルコンデス氏は「クリエイティビティが最も力を発揮するのは、ビジネスと消費者の課題を解決し、一貫性を保ち、人間が主導権を握っている(human-led)ときだ」と語り、量産の波の中でこそ人間の判断が要となることを強調しています。

Branding Spike Analysis:価値は「成果物」から「感性エンジン」へ移る

ここで私たちが提唱したい概念が、「感性エンジン(Kansei Engine)」です。

これまでブランドの資産(アセット)とは、完成したロゴであり、撮影されたビジュアルであり、書かれたコピーでした。つまり「名詞」だったのです。しかしAIが、それらしいビジュアルもコピーも無限に吐き出せるようになった今、完成品そのものの希少価値は限りなくゼロに近づいていきます。誰でも作れるものに、ブランドの差は宿りません。

では、何が希少になるのか。それは「無限に生成される候補の中から、どれがこのブランドらしいかを見極める判断軸」です。AIは「量」を担い、人間の感性は「方向」を担う。この判断軸こそが「感性エンジン」であり、ブランドの新しい競争優位の源泉となります。

  • 従来のブランド:完成した「もの」の集合体(=静的な名詞)
  • これからのブランド:オン・ブランドな表現を生成し続ける「仕組み」(=動的な動詞)

注目すべきは、R/GAが「マーケティングはコスト(経費)ではなく、プロダクトになる」と言い切った点です。一度作って終わりの広告は減価償却される「経費」でした。しかし、感性エンジンが生み出し続けるブランド表現は、時間とともに価値を蓄積していく「資産=プロダクト」へと姿を変えます。

つまりブランド構築の主戦場は、「美しい一枚絵を作る能力」から、「AIに何を学ばせ、無数の出力から何を選び、何を捨てるか」というキュレーションと審美眼の設計へと移行するのです。AIが優秀になるほど、それを律する人間の感性の解像度が、ブランドの格を決めることになります。

日本市場への示唆

この潮流は、日本のブランドにとって追い風にも、逆風にもなり得ます。

日本企業は伝統的に「作り込み」「一貫性」「美意識」に強みを持ってきました。これらはまさに「感性エンジン」の中核をなす資質です。一方で、多くの現場ではいまだ「AIで何枚バナーを量産できるか」という“量”の議論に留まっています。問うべきは量ではありません。「自社の感性エンジン――つまり、何が自社ブランドらしくて、何がそうでないかを判断する基準――は、言語化され、AIに学習可能な形で資産化されているか」という点です。

ブランドガイドラインを「禁止事項のリスト」としてではなく、「無限の表現を生み出すための創造のルール」として再設計すること。それが、AI時代に日本のブランドが感性で勝ち抜くための、最初の一歩となるでしょう。

出典

出典:Making Things That Make Things: A Playbook for the Intelligence Age(Cannes Lions 公式プログラム)

出典:Top Advertising, Marketing and Media news headlines of today - June 22, 2026(BestMediaInfo)

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